人体にとって首や頚椎ってどんな場所だと思いますか?端的に答えると、「非常に大事な場所」という答えになります。その理由を、首や頚椎が体の中で果たしている役割を知ることで考えていきましょう。
まず、「首」と「頚椎」の違いはご存知でしょうか。首は皆さんがイメージするとおりのど仏のある部分のことで、頚椎は首の骨のことを指します。頚椎の中には脊柱管と呼ばれる神経を保護する円柱状の空間があるのですが、これが第一の「体にとって頚椎が大事」なポイントです。人間の体は脳で出された電気信号を、神経を通して各部位に伝えることで運動しています。また各部位で得た情報を電気信号にし、神経を通して脳に伝えることでその情報を分析しています。つまり脳と体の各部位を連動させるためには、神経はなくてはならないものなのです。そして脳から伸びた神経は体のどの部位へ行くにせよ、頚椎を通らなければなりません。つまり頚椎や頸椎を含む首というのは、人間の運動能力や知覚を守る上でとても重要な役割を担っているのです。事故などの後遺症で麻痺や半身不随などの症状が起こるのは、この頚椎内部の神経が損傷を受けことが原因のものも多くあります。
神経以外の面だと、人間は外部の情報の多くを視覚から得ています。そのため、なにか得たい情報がある時には無意識にそちらを向いて情報を取り入れようとするのですが、首の調子が悪いと体ごとそちらを向かなければならず非常に効率が悪くなってしまいます。情報の取得が遅れれば咄嗟の判断にも支障が出ます。こうした「視野の確保」という点から見ても、首はとても大事な部位なのです。
それから、首には頭を支える、という役割もあります。頭部は人体の中でもトップクラスの重量を誇るので、人間は二足歩行の動物なので重いものが一番上にあるという非常にアンバランスな構造体となっています。そのため歩行や走行はもちろん、日常生活の全てにおいて「いかに頭部のバランスをとるか」ということが大切なのですが、その役目を担っているのは細い首。負荷の大きさはいうまでもありません。
これに追い討ちを掛けているのがパソコンやスマートフォンの普及です。下を向いた姿勢や前かがみの姿勢が常態化してしまっている現代社会では、首への負荷は昔に比べて確実に大きくなっています。もちろん人間とて無策に進化を遂げてきたわけではありませんので、背骨や頚椎のS字湾曲など負荷を分散させる努力はしているのですが、抜本的な解決には至っていないのが現状です。
上記のように首や頚椎というのは人体においてとても重要な役割を担っています。一方その分、非常に大きな負荷がかかっているのもまた事実。こうした負荷は、きちんとケアしてあげないと痛みや不調の原因になってしまいます。これから紹介するストレッチは首のケアにぴったりです。日ごろから酷使している首や、調子が悪くなると全身に影響を与えかねない頚椎を労わってあげるために、積極的に取り入れていきましょう。
まずは準備体操から。両手を脱力させた状態で、肩にだけ力を入れてぐっと首をすくめます。その後ゆっくりとまた脱力状態に戻していきましょう。この緊張と緩和を繰り返すことで首から肩に掛けての筋肉が温まり、これから行うストレッチがより効果的なものになります。
<首のこりに効くストレッチ>
首がなんだか張っているようでだるい。そんなときには首のこりをほぐすストレッチがおすすめです。簡単なものだと、両手を後ろ手で組みリラックスさせた状態で頭を前後に倒すもの。あるいは首を横に倒し、倒したほうの手で反対側の耳の辺りを押し込んであげるものがあります。
仰向けになりタオルをくるくると巻いたものを頭の下に置き、後頭部に下向きの力を入れるトレーニングも、首を正しい位置に矯正する方法として有効です。タオルを頭で押しつぶすようなイメージで行いましょう。
また全身の筋肉というのは全てつながっているため、肩や胸のストレッチも首の負担に効果的です。
<胸・肩のストレッチ>
前傾になってしまっている首から胸に掛けての姿勢を正常な状態に戻すための、弓なりストレッチが有効です。中腰の姿勢で膝に手をつき、そのまま胸ごと背中を反らせます。上半身全体が天井を向くイメージです。座った状態なら、正座で両手をそれぞれ反対の肩をつかむように胸の前でクロスさせ、胸ごと背中を反らせましょう。
次は肩のストレッチ。まず壁に向かって立ってください。そして自分の胸からお腹ほどの高さの位置に手をつき、そのまま上体を前方に沈めていきます。このストレッチでは胸や肩、肩甲骨周りの筋肉を伸ばすことができます。
これらのストレッチは、首を支えるいわば土台部分へのストレッチです。首のストレッチとあわせて行うことでより大きな効果を得ることができます。S字湾曲が姿勢の悪化に伴いなくなりまっすぐになった「ストレートネック」や猫背の解消にも役立ちますよ。
この記事で紹介してきたストレッチはどれも簡単で気軽にできるものばかりですが、しかしストレッチはストレッチ。普段以上の力を体に掛けていることには変わりません。なので、正しい姿勢で行わないと逆効果になってしまうことがあります。また正しい姿勢で行えていても、不調の原因がこりではなく、脊柱管の中を通っている神経への圧迫だったりした場合にも逆効果です。特に痛みやだるさなどの他に痺れが見られる場合には慎重に行いましょう。正しい姿勢でやっているにも関わらず「痛気持ち良い」ではなく「痛い」という感覚しか得られない場合や、ストレッチを続けても症状が改善されない時にはプロの先生に診てもらうようにしてください。