ある日、腕を上げたらピリッと痛みが走ったという経験はありませんか。肩や腕が上がらない、肩がこわばったように感じる、腕を自由に動かせない、寝返りを打つたびに肩が痛む。このような症状があったら五十肩かもしれません。五十肩とは一体どのような疾患なのでしょうか。
五十肩は、医学的には「肩関節周囲炎」と呼ばれています。その原因はまだはっきりとは解明されていませんが、加齢に伴い肩の関節や筋肉、周囲の組織が固くなったり縮んだりして炎症や痛みが発症すると考えられています。これらの直接的な要因に加えて、普段の生活習慣やストレス、ホルモンバランスの変化、血液循環の悪化などの間接的な要因も、発症のきっかけになる可能性があるといわれています。
五十肩の症状は一般に発症から約2週間の急性期、その後約6ヶ月間の慢性期を経て、回復期に至るとされています。急性期には運動時はもちろん、安静時や夜間にも痛みが出るようになり、徐々に肩の可動域が狭くなっていきます。慢性期になると痛みが軽減していきますが、肩の可動域の制限は残ります。回復期になれば可動域制限が残るものの痛みはほとんどなくなるため、機能障害の自覚もなくなり、自然に可動域が回復します。大体回復までに1年前後を要しますが、約7年かかった人がいるとの報告もあり、自然治癒だけではなく、積極的かつ適切な治療が必要といえるでしょう。治療方法としては、痛みを抑える消炎鎮痛薬の服用と、肩の動きを回復させる体操の2本柱がメインとなります。
急性期には痛みが強いので安静にすること。激しい痛みがある場合でも、数日で痛みが引いていくので無理して動かさないようにしましょう。また、痛みの原因が炎症であることが多いので、保冷剤などで患部を冷やすと痛みがやわらぐことがあります。
慢性期の運動障害は、体操やストレッチが効果的。この時のポイントは肩甲骨の動きです。肩甲骨の可動範囲が正常ならば、肩関節の動きが悪くても日常生活に支障が出るほどにはならないからです。ただし、凍結肩といわれる状態になった場合は、整形外科で理学療法士の指導のもと、運動療法を行わなければいけない可能性もあります。
もしかして自分は五十肩なのかも?そう思ったら、まずはその肩の痛みが肩こりからくるものか、五十肩からくるものなのかをセルフチェックしてみましょう。
①両腕を前から耳の後ろまで真っ直ぐに上げてみる
②手の平を上に向け、両腕を真横から真上に上げる
③両腕を腰に回す
④両腕を頭の後ろに回す
以上の動作をしたとき、痛みを感じたり、違和感があったりするようなら五十肩の疑いが濃厚です。気になる症状がある人は無理をしたり、そのうち治るからと軽く考えたりせず、整形外科などの病院、診療所で一度診てもらってください。
自然治癒を待つのもいいのですが、人によっては激痛を伴う五十肩。できるだけ早く治したいですよね。肩の痛みが治まってきたら、少しずつ運動を始めましょう。
〈肩のストレッチその1〉
1)痛みのあるほうの手におもりをつけて、30~40度の角度でおじぎをした姿勢をとります。反対の手を椅子の背などに置いて肩の力を抜きましょう。
2)椅子の背をつかみながら、全身を前後に大きく2~3回動かします。
3)体の動きを止め、振り子をイメージしながら腕を揺らし続け、自然に止まるのを待ちます。
4)以上の動作を10回繰り返してください。
〈肩のストレッチその2〉
1)痛みのあるほうの手におもりをつけて反対の手を椅子の背に置き力を抜きます。
2)椅子の背をつかみながら全身を左右に大きく2~3回動かします。
3)体の動きを止めて振り子をイメージしながら、腕を揺らし続け、自然に止まるのを待ちましょう。
4)以上の動作を10回繰り返してください。
その1とその2のエクササイズを1セットとして、1日3セット行ってください(朝・昼・夜1セットずつ)。このストレッチにより痛みが強くなるようなら無理はしないこと。また、痛みが軽減されない場合は、整形外科など専門の医師に相談しましょう。
中高年に多い五十肩。できれば発症する前に予防するのが一番です。体の内部で起こっていることは直接目に見えない分、自覚症状が出るまでなかなか気づかないもの。原因のはっきりしない五十肩ですが、ある日突然痛みに襲われるわけではありません。肩の内部からジワジワと進行するので、痛みが出る前に肩に違和感やしびれなどの前兆があるはずです。こうした肩の違和感、変化を見逃さないよう、普段から意識してみてくださいね。
痛くて不便な五十肩にならないようにするには、全身を伸ばすストレッチや適度な運動などを習慣づけるようにするのがおすすめです。できる範囲で毎日続けることを目標にしましょう。
1)両方の肩をぐるぐると前後に10回回す
2)両腕を前から真っ直ぐ上に上げ、耳の横につけてからゆっくりと下ろす
3)肩を力いっぱい前にすくめる、後ろに広げるを繰り返す
4)両腕を真っ直ぐ横に伸ばし、そのまま肩より上にあげ、30秒キープする
ストレッチは間違ったやり方をすると効果が出ないばかりか、筋肉を疲労させてしまうこともあるので注意が必要です。力を込めて無理に行うのではなく、勢いをつけずにゆっくりと動かしましょう。また、呼吸を止めると心臓に負担がかかるので、息を止めずにリラックスし、自然な呼吸を保つようにしましょう。
40代から発症率が上がるといわれる五十肩(四十肩)は、経験した人でないとわからない痛みや生活の不便さがあります。誰にでも発症する可能性があるので、まずは五十肩にならない生活を心がけましょう。そして、万が一発症してしまっても、適切な治療や対策をとれば比較的早く治すことも可能です。五十肩になったからと言って、すぐに諦めてしまわないでくださいね。